多胡天体(GSC3656.1328)
岡山県のアマチュア天文家、多胡昭彦さん(73)が10月30日午後6時52分から30秒間、自宅天文台にセットした天体観測用自動撮影デジタルカメラを使って撮影された画像上で、カシオペア座ベータ星の南約4.5度の位置に、8.8等星の新天体を思わせる天体があるのを発見しました。 確認のため31日に再度撮影すると、7.5等級と明るくなっていたため特殊な変光星と判断し、兵庫県洲本市の中野主一さん(東亜天文学会)に連絡しました。 また、茨城県水戸市の桜井幸夫さん(53)も同じ天体を中野さんのところへ通報しており、新天体に間違いないということで、中野さんはアメリカの国際天文学連合に通報しました。 多胡さんは25日と27日にもこの星付近を撮影しており、普段は11.8等星であるこの星(GSC3656.1328)が10.7等、10,5等と次第に明るくなっていき、30日には8.8等、31日には7.5等と急激に明るくなったので通報した、という次第です。 多胡さんは、これまでに、多胡彗星をはじめとする彗星4個と新星を4個発見しているベテラン・アマチュア天文家です。 その後、研究家によるスペクトル観測などの結果、この星は新星や爆発変光星の特徴を持っておらず、重力マイクロレンズ現象による増光というのが有力視されている不思議な星であることがわかりました。 重力マイクロレンズと呼ばれるこの現象は、恒星などの発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられ、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象のことで、アインシュタインが発表した理論です。 現在プロの天文学者によって、暗い例は数多く発見されていますが、このように明るい現象が見つかったのは初めてであり、しかもアマチュアが発見したというのですから快挙と言えます。 この星は31日を境に減光し始め、その減光の光度曲線は、重力マイクロレンズ現象が予言するものによく一致しているということなので、この星の増光が重力マイクロレンズによるものであると言って間違えのないところでしょう。 ここでは、この星が新星でもないし変光星でもないので「多胡天体」とします。 |
2006年11月9日 22:40頃撮影 口径20cm反射望遠鏡+ST-9E 使用 2006UT R.A.(2000) Decl m1 Nov09.57491 0 09 22.00 +54 39 43.7 11.33(CCD光度) |
撮影者: 古山茂 |